マーリンアームズ株式会社

DHC翻訳若葉荘「本日の講義」

第12回 翻訳を科学する その2-関連語変換(2005年9月配信)

 「ピンぼけの写真」を挟んだので、すこし間が空いてしまいましたが、ゴールデンウィーク中、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作を見ながら構想した「翻訳を科学する」の第2回です。今回は、頭の中の7割ぐらいを野球と野球カードが占めている夏休み中の息子と一緒に『メジャーリーグ』3部作を見ながら説明を考えた「関連語変換」についてお話ししましょう。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の方は、結構刺激的で灰色の脳細胞の活性化に役立ったような気がしますが、『メジャーリーグ』のとくに第2作と第3作は、昼寝をしながら見るのに最適の映画でした。弱小チームのインディアンズは第1作でレギュラーシーズンの優勝を飾り、第2作の終わりでリーグ優勝を飾りました。監督さんは第3作ではワールドシリーズのタイトルを取らせたいと思っていたのでしょうが、第2作が不評で路線をまったく変えたようです。それでも、人気挽回ならずといったところでしょうか。

 前回の「翻訳を科学する その1」では、品詞変換について説明しました。英語を日本語に翻訳する際には、英語で名詞だからといって訳文でも名詞にすると、いわゆる直訳調の奇妙な日本語になってしまう場合があります。そこで、たとえば、原文の名詞を動詞的な表現を使って訳したりします。前回、次の例をご紹介しました。訳例1は翻訳ソフトの直訳、訳例2では「熟知」を「熟知する」と「動詞化」した例、訳例3は「知っている」と、より一般的な表現の用言に置き換えたものです。

例文1 Familiarity with Internet email systems is a must.
訳例1 インターネット電子メール・システムの熟知は、必要である。
訳例2 インターネットの電子メールシステムについて熟知している必要がある。
訳例3 インターネットの電子メールシステムについてよく知っている必要がある。

 今回のテーマは「関連語変換」です。原稿執筆時点で、“品詞変換”と引用符付きでグーグってみると97件マッチしますが、“関連語変換”をグーグってみると、私が書いたコラムにしかマッチしません。どうやらこの言葉は私が発明した言葉と考えてよいようです(このメルマガの初心者の方へ。「グーグる」とは検索エンジンのグーグル — http://www.google.co.jp/ — で検索することを意味する動詞です。名詞「グーグル」が「動詞化」した用法です)。

 では、次の例で「関連語変換」について考えてみましょう。

例文2 Mark is a good swimmer.
訳例1 マークはよいスイマーです。
訳例2 マークは上手に泳げる。
訳例3 マークは泳ぎがうまい。

 例文2の訳例1「マークはよいスイマーです。」は翻訳ソフトが出してきたきわめて不自然な訳ですが、訳例2のように「上手に泳げる」としたり、訳例3のように「泳ぎがうまい」あるいは「泳ぐのがうまい」「水泳が上手だ」などとすれば違和感がありません。訳例2の場合 swimmer という名詞が「泳げる」と動詞に品詞変換されています。また、 good という形容詞が「上手に」という、動詞「泳げる」を修飾する副詞に変換されています。この例のように、ひとつの単語を品詞変換すると、それに伴って周囲の単語も品詞変換が必要になることがあります。名詞 swimmer が動詞「泳げる」なったので、swimmer を形容詞として修飾していた good は、動詞を修飾するために副詞になる必要があります。形容詞のままにして「よい泳げる」では文法的に許容されませんね。

 さて、この swimmer と「泳げる」の関係ですが、これは「品詞変換」と言えるでしょうか? 確かに名詞から動詞になっているのですが、例文1の「熟知」と「熟知する」が単純に品詞を変換したものと言えるのに対して、こちらはちょっと違う感じがします。 swimmer には「泳ぐ」という動作とともに「人」という意味が加わっています。これに対して「泳げる」には、「泳ぐ」のほかに「〜できる」という「可能」の意味が加わっています。こう考え始めると、このテーマは結構深いものがあることに気づかれるでしょう。

 今度は訳例3「マークは泳ぎがうまい。」を見てみましょう。こちらは、名詞 swimmer が「泳ぎ」という名詞に、形容詞 good が「うまい」という形容詞になっているので「品詞」はどちらも同じです。しかし、「泳ぎ手」あるいは「泳者」に相当する swimmer が、同じ意味を表す語ではなく、関連はするものの別の意味を持つ単語である「泳ぎ」に変換されています。形容詞 good は同じく形容詞の「うまい」に変わっていますから、これも品詞は変わっていません。だだし、よく見てみると、good swimmer と名詞を前から修飾する形容詞(限定的形容詞と呼ばれます)だったものが、「泳ぎがうまい」と、いわゆる「述語的な」形容詞に変わっています。形容詞を「限定的形容詞」と「述語的形容詞」に細分類すれば、その間の変換とは言えるので、「品詞細分類変換」と呼べるかもしれません。

 訳例2の「マークは上手に泳げる。」は、品詞変換の例として使われていることもあるのですが、よく検討してみると、同じ品詞変換でもいろいろな種類があることがわかります。じつは、私も最初は「品詞変換」としてまとめて考えていたのですが、翻訳ソフトに品詞変換の機能を持たせようとして分析してみていろいろあることに気がついたのです。

 そこで、例文2の訳例2や訳例3のような変換を「関連語変換」と呼ぶことにしました。品詞変換も品詞が違う関連語への変換ですから、関連語変換は品詞変換を含む概念ということになります。

 もうひとつ例を見てみましょう。

Mark is such a good correspondent.
訳例1 マークは、良いそのような通信員である。
訳例2 マークは非常にすぐれた文通者です。

訳例1はある翻訳ソフトの出してきた訳文、訳例2はもう少しまともな直訳の例です。 correspondent をどう訳せばよいか、ちょっと考えてしまいますね。good correspondent が何を意味するかを考えて、それを自然な日本語に表現することになるでしょう。文脈にもよりますが、たとえば「筆まめ」とか「すぐに返事をくれる」などといった correspondent の関連語を使った表現を思いつけば、自然な訳文にたどり着けそうです。

 このように、人間の翻訳作業では、さまざまな「関連語変換」が行われているわけです。翻訳をなさっている皆さんは、ご自分の訳文でどんな関連語変換が行われているか、見直してみるとおもしろいかもしれません。

 最後に皆さんにお知らせです。私たちの会社でブラウザと辞書引きソフトを融合した、まったく新しいタイプのソフトウェアDictJugglerを開発しました。まもなく一般公開します。ウェブページでも、Word の書類でも、テキストファイルでも、単語をクリックするだけでさまざまな辞書や検索エンジンなどを一度に引ける、翻訳の効率アップ間違いなしのソフトです。残念ながら多くの皆さんがお使いの Windows 用のソフトではなく、マッキントッシュ用のソフトですが、ご興味がおありの方は次のページからダウンロードしてください —私のウェブページからリンクしておきますのでご覧ください。(じつはヘルプなどが準備中で、一般公開前なのですが、メルマガの読者の皆さんだけに、特別に公開してしまいます。簡単な使用方法はウェブにありますのでご覧ください(武舎注:2005年10月16日現在「プレリリース版」を公開中です)。Windows 版も開発したいのですが、の開発にはかなりの時間がかかりそうなのです。何とか実現したいのですが……。それでは、また次回。


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