マーリンアームズ株式会社

DHC翻訳若葉荘「本日の講義」

第14回  翻訳を科学する その4 関連語と変対語(2005年12月配信)

この原稿を書く数日前に、取引先の大柄な男性Hさんからメールが届きました。「風邪がはやっているようですので、お気をつけください」

2冊の単行本の翻訳を抱え、辞書引きソフトのDictJugglerを発売してテンテコ舞いの私は、世の中に「風邪」というものがあることをほとんど忘れていたのですが、このメールを読んだ瞬間、体の中に蓄積されていた風邪の菌がその活動を開始したようです。翌日から、喉の痛み、頭痛、鼻水、咳、と日替わりのようにやってきました。ボランティアでコーチをしている小学校のサッカーチームの、年に1度の国際大会(在日の外国人小学生チーム3つを呼んでの親善試合)で審判をすることになっていたのですが、残念ながら欠席となってしまいました。

風邪をひいたのを「単なる偶然」とかたづけるのは簡単ですが、昔から「言霊」とも言うように、言葉には不思議な力があることもまた事実です。皆さんが単に辞書から取り出してきて対応する言葉のところに当てはめた訳語と、作者の意図や読者の知識、原著者の住む国と日本との環境の違いまで考慮に入れて絞り出してきた訳語とでは、読者に与える印象がまったく違います。そういった単語が何万、何十万と集まってできる本1冊ともなれば、それはもう、とてつもなく大きな違いが生まれてしまうのです。単に頭の中を素通りする文字の列として終わってしまうか、心の奥底に焼き付けられて一生の宝となるか。ハイ、添削課題に取組中のあなた、もう一度しっかり読み直してから提出してくださいね。

冬本番を迎えつつありますが、皆さんもお風邪など召しませんように(大丈夫です。このメールをお読みになったからといって風邪はうつりません。「邪気払い」をしておきましたのでご安心ください)。

さて、今回の題材は言葉遊びです。前回は「関連語と類語」について考えましたが、言葉遊びという観点から「関連語」について考えます。タイトルは「関連語と変対語」。

前々回の私のメルマガにあった、チャーリーとひろし君の会話をまず振り返ってみましょう。

チャーリー「ちなみに“Alive and kicking”は、“元気でピンピンしてるよ!”っていう意味なり」
ひろし「へえ。そうなんだぁ。ふうん。まあ、いいや。ママ、これからヨーダと茶でもしばいてくるわ」

チャーリー君は文の最後に「〜なり」をいつも付けています。これがあると、昔見ていた漫画の登場人物を思い出しますね。「あのころは、まだ若かったな〜。一緒にこれを見たことのある、○○ちゃんは、もう結婚したかな〜」といったように。今回注目するのは、ひろし君がママに向かって「これからヨーダと茶でもしばいてくるわ」と言っている台詞です。お茶の関連語としては、「コーヒー」「紅茶」「ウーロン茶」「ジャスミンティー」「ジュース」「喫茶店」「レストラン」...といった名詞があります。お茶に関連しそうな動詞を考えてみると「(を)飲む」「(を)買う」「(に)誘う」「(に誘って)ナンパする」ぐらいのところが普通の人の思いつくところでしょうか。ところが「ひろし辞書」には「茶」の関連語として「しばく」が登録されているようです。一般人が関連づけない言葉をあえて関連づけることによって、なんだか知らないけどおもしろい感じがしますね。(武舎注:「ちゃー、しばく」というのは関西の若者が使う言葉だそうですね。知りませんでした。 「牛しばく=牛丼を食べにいく」「コケしばく=ケンタッキーフライドチキンを食べに行く」などというのもあるのだそうです)。

このように関連語は言葉遊びの材料を提供してくれます。ここで、話はウン十年前、私の学生時代にさかのぼります。ある日、とあるサークルの仲間でミーティングをしていました。その日のミーティングには、みんなから「アオ」と呼ばれていた青木さんが欠席をしていました。

「アオはどうしたの?」と誰かが尋ねます
「今日は社会学者の○○の講演聞きに行くと言ってた」とかなんとか、誰かが答えました。
「やけにアカデミックやん」
「それを言うならアオデミックでしょう」

ここでチョッピリでも笑った方、読み進めてください。ぜんぜん笑わなかった方、さようなら。また次回、おめにかかりましょう。ここから先を読んでもおもしろくありません(オッといけない、大家さんの最後のお言葉だけは読んであげてくださいね)。

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「変対語」は「へんたいご」と読みます。「変な対(つい)の言葉(語)」を略して「変対語」です。アカデミックの「アカ」を「アカ」の関連語である「アオ」に変えることにより、「アオデミック」という現実には存在しない単語をつくって、何となくおもしろいなと思う言葉遊びです。

私は学生時代陸上競技をやっていたことがあります(そういえば、メルマガ担当のやや小柄な女性Hさんも昔やってらしたんでしたね)。専門の種目ではありませんでしたが、ハイジャンプ(走り高跳び)も時々やりました。背面跳びでHさんの身長ほどの高さを、サーッと跳べるととなかなか気持ちがいいものです。走り高跳びの世界記録はなんと2m45cm、1993年7月27日に作られた記録だそうです(検索エンジンで調べてみてください)。私に風邪メールを送ってくださった大柄なHさんのはるか頭の上を超えてしまいますね。この大記録の保持者はキューバのソトマヨル。「ソト」と来れば「ウチ」。「ソトマヨル、ウチマヨル」。ウチマヨルという選手はいませんが何となくおもしろい。

しばらく前に大流行でしたが、最近ちょっと下火かなと思うのが「指来す」ではなく「ユビキタス(ubiquitous)」。この言葉、私が大学院の学生だった頃にも一時期研究者の間で、はやったことがありました。それ以来、十年以上この単語を見たことはありませんでしたが、あっという間にブームになり、最近はしっかり定着してしまったようです。「ユビ」とくればなんでしょう? 手? 肩? 腕? やっぱり「アシキタス」でしょう。「テキタス」「カタキタス」「ウデキタス」ではどれもさえません。「テキタス」は語の長さが違ってしまうところで、失格ですね。「カタキタス」「ウデキタス」と類似する単語でも今ひとつ弱い。どうも、単に「指」だと手の指をさすようですね。手の指に対しては本当は「足の指」が対になるのでしょうが、「指」と「足」も対のような感じがしてしまうから不思議です。

といった具合に、関連語変換は人間の知的な(?)遊びの材料にもなっているのです。では最後に、皆さんにクイズです。「イスカンダル」の変対語は? 「パパイヤ鈴木」の変対語は? ついでに「ハーマイオニー」は? しばらく考えてみてから、「イスカンダル パパイヤ鈴木 ハーマイオニー」とGoogle大明神(www.google.co.jp)にお伺いを立ててみてください。こんな変な組み合わせを含む普通のページは、私の変対語を集めたページしかありません。(武舎注:ウェブをご覧になっている方が探すのは面倒でしょうからリンクを書いておきます — 変対語のページへGO!


前の講義 目次に戻る 次の講義