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英日翻訳 基礎演習講座

Lesson 6 文章のリズムや思考の流れを再現する

この講座全体の最大の目的は,皆さんにいわゆる「英文和訳」と「翻訳」の違いをしっかりと認識していただき,翻訳家への着実な歩みを進めていただくことです。「英文和訳」では,原文を「公式」に当てはめて日本語の文字列にすることが求められますが,「翻訳」においては,原文と同じ印象を与える訳文が作れるよう,原文の自然な流れをつかみ,それを再現できなければなりません。

翻訳というのは,一語一語,一文一文をこつこつと訳して,それを最後まで積み重ねていく作業ですが,語,句,節がそれぞれスムーズにつながって文章全体のリズムや思考の流れが再現されていないと,完成した訳文を読んでもスッと頭に入ってこない,わかりにくい文章になってしまいます。関係節,分詞,前置詞句や副詞句,形容詞句などの修飾要素の訳順は,文の流れを再現しようとする際に重要なカギとなります。

大原則6 長文は原文の語順に即して訳す

基本的に長文は原文の語順に即して訳すというのが大原則です。たとえば英文和訳式に,関係節をいつも後ろから前に訳していたのでは,訳文の名詞の前に置かれる修飾語句がだらだらと長くなってしまって,即座に意味の理解しにくい文になってしまいます。

もちろん例外もありますし,前後関係で注意と工夫を要するケースがあります。最終的にはその場その場で臨機応変に対処していくしかないのですが,いつも忘れてはならないのは,できあがった訳文が日本語の文章として筋の通った,わかりやすいものでなければならないということです。

STEP 1 訳し下げ

関係節,分詞などを,原文の語順どおり頭から順に訳していくことを,「訳し下げ」と呼び,逆に順番を反対にしてしまうことを「訳し上げ」と呼びます。まず,訳し下げをした方がよい例を,関係節,分詞,句のそれぞれについて具体的に見てみましょう。

●関係節

学校の文法の時間に習ったように,関係節には,which,who,thatなどの関係代名詞に導かれるものと,where,whyなどの関係副詞に導かれるものがあります。

This was the first train the children saw on that railway which was in time to become so very dear to them. (The Railway Children by E. Nesbit)

訳例1 これは,やがて三人にとって,ほんとうにほんとうに大切な存在になる,あの鉄道で子供たちが見た最初の汽車だったの。

訳例2 これは,あの鉄道で子供たちが見た最初の汽車だったの。やがて三人にとって,ほんとうにほんとうに大切な存在になる,あの鉄道で。

このように,関係詞whichの直前のカンマがないからといって,学校の英文法の時間に習った「英文和訳」方式で,機械的に限定的な用法(つまり,うしろの関係節に導かれた修飾語句を先に訳してから,前にある被修飾語を訳すケース)だと考えて文尾から訳し上げると,だらだらとした文になってしまいます。whichに続く修飾が長ければ長いほど,訳文はしまりがなく,わかりにくく,読みづらくなります。

さらに,機械的な訳し上げをすると,筋の通らない妙な文になってしまうケースもあります。たとえば次の例を見てください。

Cosmologists believe that our sun was once surrounded by a gigantic ball of dust that collapsed first into a series of rings and eventually into planets...... (The Japan Times, July 3, 2004)

訳例1 かつて太陽は,最初つぶれて幾層もの輪となり最終的には惑星になった塵の巨大なボールに囲まれていた,と天文学者は信じている。

訳例2 天文学者の説によれば,太陽はかつて塵の巨大なボールに囲まれていたのであって,そのボールがつぶれて最初は幾層もの輪となり,それが最終的には惑星になったという……

dustのあとのthatで始まる関係節は,関係節の意味的内容から見て,原文の語順どおりに訳した方が意味がはっきり伝わります。つまり,太陽を囲んでいた塵の巨大なボールがつぶれて幾層もの輪となり,最後にはその輪が惑星になったのであって,それを訳例のように訳し上げしてしまうと,起こったことが過去から順に並ばなくなるため意味がとりにくい訳文になります。

●分詞

分詞が接続詞と動詞を兼ねた働きをしている節や,分詞が形容詞的に名詞を修飾している句,副詞的に動詞を修飾している句があります。それぞれの場合で,原文の語順に即して訳したほうがよい例を見ていきましょう。

現在分詞

Clustering around small TV sets in cafes, hotel lobbies and shops, Iraqis watched raptly as Saddam Hussein appeared in court, some seething with anger, others in unease. (The Japan Times, July 3, 2004)

訳例1 カフェやホテルのロビー,小売店に置かれた小さなテレビを取り巻いて,イラクの人々は,ある者は怒りに燃えつつ,またある者は不安げな表情で,フセイン元大統領が出廷する様子を見守った。

訳例2 イラクの人々はカフェやホテルのロビー,小売店に置かれた小さなテレビを取り巻き,フセイン元大統領が出廷する様子を見守った。ある者は怒りに燃えつつ,またある者は不安げな表情で。

Clusteringという現在分詞に導かれた節がwatchedを修飾しています。これは普通に頭から順に訳し下げていって問題のない例です。訳例1でも意味は通じますが,読み比べると,訳例2のほうが読んでいくに従って,原文の語順どおりにスッと頭に入ってくる文になっています。訳例1の方は修飾語句ばかり連続して主動詞がなかなか出てこないのでじれったい感じになってしまいます。

逆に,分詞で始まる修飾語句が,被修飾語のあとにくる例を見てみましょう。

Warheads believed to contain the deadly nerve agent cyclosarin have been found by Polish troops in south-central Iraq, dating back to ousted President Saddam Hussein's war with Iran in the 1980s..... (The Japan Times, July 3, 2004)

訳例1 1980年代のイラン・イラク戦争当時のものと推定される,猛毒の神経ガス,サイクロサリンが含まれていると見られる弾頭が,ポーランド軍によってイラク中南部で発見された。

訳例2 猛毒の神経ガス,サイクロサリンが含まれていると見られる弾頭が,ポーランド軍によってイラク中南部で発見されており,1980年代のイラン・イラク戦争当時のものと推定されている。

被修飾語であるWarheadsのはるか後ろに,datingで始まる修飾語句があります。この修飾語句は,うしろから訳し上げないほうがよい例です。訳例1のように訳し上げをすると,Warheadsのすぐあとに続く,believedで始まる修飾語句と重なってしまうため,一読しただけでは,「1980年代のイラン・イラク戦争当時のものと推定される」の修飾語句が「神経ガス」にかかるのか,「弾頭」にかかるのかわかりにくく,リズムもくずれてしまいます。

過去分詞

Somewhere in Germany is a baby Superman, born in Berlin with bulging arm and leg muscles. (The Japan Times, June 25, 2004)

訳例1 ドイツのある所に,ベルリン生まれで,腕も脚も筋肉隆々のスーパーベイビーがいる。

訳例2 ドイツのある所にスーパーベイビーがいる。ベルリン生まれで,腕も脚も筋肉隆々だ。

過去分詞bornから文末までがbaby Supermanを修飾しています。しかし,ここは記事の冒頭で,スポットライトはあくまでもスーパーベイビーに当たるべきですから,訳例1のようにすると,意味は伝えられますが,もたついて歯切れが悪く,劇的な効果が薄れてしまいますし,「ドイツのある所に」と書いてすぐに「ベルリン生まれで」ときては,ちぐはぐな感じでもあります(現在どこに住んでいるかはプライバシー保護の観点から明らかにできないがという意図でborn in Berlinと書かれているのでしょう)。そこで原文の順序に従って訳し,2つの文に切り離しました。訳例2の日本文としてのリズムを感じ取ってください。

●句

After a thorough investigation of every portion of the house without farther discovery, the party made its way into a small paved yard in the rear of the building, where lay the corpse of the old lady, with her throat so entirely cut that, upon an attempt to raise her, the head fell off. (The Murders in the Rue Morgue by Edgar Allan Poe)

訳例1 さらなる発見もないまま家じゅうをくまなく調べたあと,一同は舗装された狭い裏庭へ出てみたが,そこにはのどをざっくり切られた老婦人の死体があって,それを抱き上げようとすると首が転がり落ちた。

訳例2 家じゅうをくまなく調べたものの,それ以上は何も発見できなかったので,舗装された狭い裏庭へ出てみると,そこには老婦人の死体があった。のどをざっくり切られているので,死体を抱き上げようとすると,首が転がり落ちた。

これは原文どおりに頭から訳していけば自然な訳文ができあがる例です。without farther discovery を始めとして,様々な前置詞句や副詞節が時間の経過に沿って並べられています。それを訳例のように一部訳し上げたりすると,死体発見の流れがわかりにくくなり,説明文のようになるので訳文のリズムも損なわれてしまいます。

訳してみましょう

原文の情報
ジャンル 随筆
翻訳時の注意 ウォールデン湖畔での生活の記録『ウォールデン — 森の生活』で有名な米国の詩人であり博物学者であり思想家であったヘンリー・デイビッド・ソローの随筆です。出版は1865年でしたが,著者自身は1862年に44歳で亡くなっています。ソローの「良心的不服従の理念」は,ガンジーやキング牧師など,後世の人々に強い影響を与えました。 引用部分では関係節が多用してありますので,必要に応じて文を切ってもよいかもしれません。できあがったら自分で声に出して読んでみて,文章全体のリズムを確かめましょう。なお,ここでは便宜上横書きにしていますが,出版翻訳系の原稿ですから,数字は漢数字で書いてください。

We found some large clams, of the species Mactra solidissima1), which the storm had torn up from the bottom, and cast ashore. I selected one of the largest, about six inches in length, and carried it along, thinking to try an experiment on it2). We soon after met a wrecker, with a grapple and a rope, who said that he was looking for tow cloth, which had made part of the cargo of the ship Franklin, which was wrecked here in the spring, at which time nine or ten lives were lost3). The reader may remember this wreck, from the circumstance that a letter was found in the captain's valise, which washed ashore, directing him to wreck the vessel before he got to America, and from the trial which took place in consequence3). The wrecker said that tow cloth was still cast up in such storms as this.....

(Cape Cod by Henry David Thorea)

語句

species
生物分類の基本単位である「種(しゅ)」
Mactra soildissima
バカ貝の類
wrecker
漂流物の回収業者
grapple
鉄でできた引っかけ鉤
tow cloth
トウ(亜麻や麻のくず繊維)製の布地

あなたの訳

 

訳例

バカ貝の仲間の大きな二枚貝を見つけた。嵐で海底から引きはがされ,浜に打ち上げられたものだ。味見をしてやろうと思って,長さが十五センチくらいもある一番大きなやつを選んで持っていった。ほどなく,引っかけ鉤と縄を手にして漂流物を回収している男に出会った。亜麻布をさがしているという。フランクリン号の積み荷の一部なのだそうだ。フランクリン号は春にここで難破して,九人か十人が犠牲になった。この事件を覚えている読者もいるのではないだろうか。海岸に打ち上げられた船長の旅行かばんから手紙が一通発見され,アメリカに着く前に船を難破させろと船長宛てに書いてあったため,裁判ざたになった事件だ。漂流物を回収している男の話では,こんな嵐のときには,亜麻布が今でも打ち上げられるらしい。

解説

  1. Mactra solidissima は「語句」のところで書いたように「バカ貝の類」ですが,これをそのまま使ったのでは随筆の雰囲気がくずれて興ざめです。自然におさまるよう,ちょっと工夫して訳してみてください。ここではclamも要注意です。clam はふつうは「ハマグリ」ですが…
  2. 2番目の文の最後のthinking to try an experiment on it. の処理は,どうしたらよいでしょうか。後ろから訳し上げますか? それともこの句の直前までを一文にして訳し,この句は新たに一文として追加しますか? つまり,「味見してやろうと思って……持っていった」にするか,「持っていった。味見してやろうと思って。」にするかです。意味的にはどちらも使えますが,訳例では後ろから訳し上げて全体を一文にしました。thinking 以下の部分も,その前の部分も短くて,2つに切るとちょっとうるさい感じがしますし,一文にまとめてもわかりやすく,別に問題がないからです。筋が通った文章になっているか,自然な訳になっているかどうか,訳文を何度も音読し,確かめてください。
  3. 3番目の文(We soon after met a wrecker, ...)と4番目の文(The reader may remember this wreck, ...)は,このSTEPの課題「文頭から順に訳していったほうがよい例」にぴったりの例文です。ただし,with a grapple and a rope の形容詞句は,2)で説明したのと同じ理由で訳例ではうしろから訳し上げています。こんなところまで訳し下げをしたのでは,文が細切れになりすぎて,これまたかえって不自然になってしまうからです。前述のとおり,長文は英文の語順を尊重して訳すというのが原則ではありますが,このように,出来上がった訳文を日本語として読んでみて,自然か不自然かをネイティブの日本人の語感で確認し,判断するわけです。

STEP 2 訳し上げ

あえて原文の語順に逆らって訳し上げる必要があるのは,そうしないと,文意がきちんと伝わらない,ニュアンスが違ってしまう,といったケースです。関係節,分詞,句の別に具体例をあげて説明しましょう。

●関係節

When he found I would leave him, he took care to prevent my getting employment in any other printing-house of the town, by going round and speaking to every master, who accordingly refused to give me work. I then thought of going to New York, as the nearest place where there was a printer... (The Autobiography of Benjamin Franklin)

訳例1 私が出ていくつもりだと分かると,彼は町じゅうの印刷屋へ出かけていって,私を雇うなと言ったから,だれも仕事をくれなかった。そこで,はたと思いついた,一番近い町ならニューヨークだ,そこなら印刷屋がある,と。

訳例2 私が出ていくつもりだと分かると,彼は町じゅうの印刷屋へ出かけていって,私を雇うなと言ったから,だれも仕事をくれなかった。そこで,はたと思いついた。印刷屋のある一番近い町ならニューヨークだ,と。

問題なのは最後の文です。訳例1のように頭から訳し下げたのでは,原文の言っていることと内容が変わってしまいます。ですから,ここでは文末のほうから訳し上げるしかありません。

●分詞

Slowly add 1 cup of milk, whisking together so it's not lumpy.
(http://cheapcooking.blogspot.com/2004/03/garlic-pizza-with-white-sauce.html)

訳例1 牛乳240ccを少しずつ加え,「だま」ができないよう泡立器でかき混ぜます。

訳例2 「だま」ができないよう泡立器でかき混ぜながら,牛乳240ccを少しずつ加えます。

後半の現在分詞whiskingに導かれた句は,明らかに前半より先に訳さなければなりません。牛乳を加え終わってから泡立器でかき混ぜるのではありません。

さて,次は訳し上げにするか,訳し下げにするか,迷ってしまうような例を見てみましょう。

Whatever you do, don't splurge on an expensive meal on New Year's Eve. This is the worst night of the year to eat out. The kitchen is slammed, the servers are stressed, and the lobby is packed with diners primed and pumped for their big night out. Everybody feels the pressure, and cuisine usually takes a back seat to ego and attitude.
(http://transfatty.blogs.com/index/2004/12/new_years_plans.html)

訳例1 大みそかに何をするにしても,高級レストランでの散財はやめたほうがいい。外食には一年中で一番不向きな夜だからだ。厨房は大わらわだし,ウェイターやウェイトレスはストレスがたまっているし,ロビーは客でごった返しているからだ。さあ,大みそかの大ごちそうを思う存分食べてやると奮い立った客で。だれもが大みそかのごちそうというプレッシャーを感じ取り,エゴと意気込みに押されて料理が二の次になってしまう。

訳例2 大みそかに何をするにしても,高級レストランでの散財はやめたほうがいい。外食には一年中で一番不向きな夜だからだ。厨房は大わらわだし,ウレイターやウレイトレスはストレスがたまっているし,ロビーはさあこれから大みそかの大ごちそうを思う存分食べるてやると勢い込んだ客でごった返しているからだ。だれもが大みそかのごちそうというプレッシャーを感じ取り,エゴと意気込みに押されて料理が二の次になってしまう。

この例なら訳例1でも訳例2でもよいのではないでしょうか。ただし,修飾部分がこれ以上長くなると,訳し上げでは冗長でわかりにくい訳文になってしまいますから,訳例1のように訳し下げにしておけば無難でしょう。このような場合は,最終的には訳文を読んでみた感じで判断することになります。何度も音読してみるのもひとつの方法です。

●句

But, despite their canny judgment in the choice of a site for their brewery and all their plans for its construction and operation, the two men were never to see their dream materialize. Both were cut down by the cholera epidemic then ravaging the country at a time when their project had advanced no further than the excavation stage.
(http://www.beerhistory.com/library/holdings/gettelman1954.shtml)

訳例1 しかし,用地を慎重に選び,醸造所の建設,稼働計画をも充分に立てたにもかかわらず,2人は夢が実現するのを見ることなく終わった。2人とも,当時全米で猛威をふるっていたコレラに倒れたのだ。そのとき,2人の計画は用地の掘削の段階にしか進んでいなかった。

訳例2 しかし,用地を慎重に選び,醸造所の建設,稼働計画をも充分に立てたにもかかわらず,2人は夢が実現されるのを見ることなく終わった。計画がまだ用地の掘削までしか進んでいなかった段階で,2人とも当時全米で猛威をふるっていたコレラに倒れたのだ。

第2文の後半(at a timeから文末まで)の句は,訳例1のように切り離してはなりません。訳例2のように第2文をひとつづきの文にしないと,「2人は夢が実現するのを見ずに終わった」という第1文のテーマを受けて話を次に続ける流れが途切れてしまうのです。

もうひとつ,また少し違った種類の例を見てください。

Germany's newly elected President Horst Koehler threw a giant open-air dinner for 1,200 people from all walks of life in front of the Brandenburg Gate on Saturday. (The Japan Times, July 5, 2004)

訳例1 ドイツの新連邦大統領ホルスト・ケーラーは土曜,ブランデンブルグ門の前で,さまざまな階級,職業の人々1,200人を招いて,盛大な屋外晩餐会を開いた。

訳例2 ドイツの新連邦大統領ホルスト・ケーラーは土曜,さまざまな階級,職業の人々1,200人を招き,ブランデンブルグ門の前で盛大な屋外晩餐会を開いた。

for 1,200 peopleも,from all walks of lifeも,in front of the Brandenburg Gateも,on Saturdayも,すべて前の方にある名詞や動詞を修飾している前置詞句ですので,文尾から訳し上げていきます。そうやって訳したのが訳例1ですが,なんとなく落ち着かない感じがしませんか。つまり,機械的に文尾から順に訳し上げればいいかというと,そうでもないのです。「ブランデンブルグ門の前で」は,やはり日本語では「盛大な屋外晩餐会を開いた」の直前に持ってくるのが普通でしょう。いずれにしても,最終的には訳文を読んだ場合に,意味的にも語感の点でも日本語として納得のいく語順に整理する必要があるわけです。

訳してみましょう

原文の情報
ジャンル 新聞記事(犯罪)
翻訳時の注意 新聞の犯罪記事ですから,「である」調を使い,それらしい用語,リズム,簡潔さ,明確さを心がけて訳してください。数字は算用数字で結構です。

Frenchman confesses to at least eight murders

A 62-year-old Frenchman who has already admitted this week to killing six young women in France and Belgium confessed during questioning late Thursday to the murder of two other teenage girls, a French investigator said1).

Michel Fourniret was charged Thursday with also murdering his aupair girl but has denied the accusation......

French prosecutors said Fourniret, who worked as a carpenter, had also confessed to shooting a driver at a rest stop along a highway in France's Burgundy region "because he needed money."

(The Japan Times, July 3, 2004)

語句

questioning
尋問
au pair girl
オペア(言語や習慣を学ぶために外国の家庭に住み込み,家事を手伝う若い外国人留学生)
charge
告発する
accusation
罪状
prosecutor
検察官

あなたの訳

 

訳例

仏男性,少なくとも8人の殺害を自供

フランスの捜査官によると,フランスとベルギーで6人の若い女性を殺したことをすでに今週認めていた62歳のフランスの男が,木曜夜の尋問で,ほかに十代の少女2人を殺していたことを自供した。

この容疑者,ミシェル・フルニレは,住み込みの若い女子留学生を殺害した容疑でも木曜に告発されているが,それについては否定している。

フランスの検察官によれば,フルニレ容疑者は大工で,フランスのブルゴーニュ地方のハイウェーのレストエリアで「金が必要だったから」ドライバーを撃ったとも自供している。

訳例

  1. 本文冒頭の文が,「うしろから訳し上げたほうがよい例」に当てはまります。学校の文法で教わったとおりのwhoで始まる関係節の限定的な用法です。翻訳の場合,whoより前の部分があまりにも長かったりすると,たとえ関係節の限定用法でも,わかりやすくしたり,文章全体のリズムを整えたりするために,whoより前とwho以後を切り離すことがあります。しかしここは記事冒頭ですから,「英語の語順に忠実に」と考えて「62歳のフランスの男が」とやってしまうと,当然,次には「フランスとベルギーで6人の若い女性を殺したことを今週すでに認めていた」の部分が来ますから,そうなると「が」で最後の部分につないで,「62歳のフランスの男が,フランスとベルギーで6人の若い女性を殺したことを今週すでに認めていたが,木曜夜の尋問で,ほかに十代の少女2人を殺していたことを自供した,とフランスの捜査官は言った。」となり,たしかに原文の流れを忠実に訳してはいますが,新聞記事としては,なんとなくしまりのない文になってしまいます。それに,この男の犯罪についての記事は,おそらくこの以前にも出ていたはずですから,よく新聞やテレビのニュースの冒頭で紹介されるように,「…をすでに今週認めていた62歳のフランスの男性」と始めたほうが,記事の出だしとしても自然なきりっとした感じが出ます。そういうわけで訳例では,who 以下の関係節を訳し上げたわけです。違いを感じ取ってみてください。

まとめ

ここまでのまとめとして,Lesson 1からLesson 6であげた「大原則」をすべてあげておきましょう。

大原則1 人称代名詞を辞書の訳語どおりに訳すことはまずない

大原則2 無生物主語は,そのまま主語にはしない

大原則3 度量衡は換算する

大原則4 不自然さを感じたら,品詞変換,関連語変換を試す

大原則5 会話は生き生きと,臨場感が出るように

大原則6 長文は原文の語順に即して訳す

そして,大原則を導き出す次の2つのチェックポイントをいつも確認しながら翻訳をしましょう。

原文の描き出す世界がもれなく正確に映し出されているか

自然な表現を使った,違和感のない訳文になっているか

英日翻訳 基礎演習講座
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