第113問 日本語の表現の問題
まず次の訳文を読んでください。
A. 外界をどう認識するか、問題をどう解決するか、どのようなメンタルモデルを選択するかなど、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
次の4つの訳文のうち、上の文と同等の意味をもつもので、もっとも簡潔と思われる訳文はどれかひとつ選んでください。なお、後半の「ありとあらゆる」から文末まではどの文も同じです。
a. 外界認識、問題解決、メンタルモデル選択などの方法を含め、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
b. 外界を認識する仕方、問題を解決する方法、利用するメンタルモデルなど、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
c. 外界の認識や問題の解決をする方法、利用するメンタルモデルなど、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
d. 外界の認識方法、問題の解決方法、メンタルモデルの選択など、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
正解(同じ意味でもっとも簡潔な文)は d. です。
もとの文 A. と(ほとんど)同じ意味になるのは b. と d. ですが、より簡潔な表現と言えるのは d. です。もとの文 A. の方が副詞や動詞を使ってていねいに説明している印象なのに対して、 d. は名詞を使ってキビキビと説明している印象になります。b. と d. を比較しても d. の方がより簡潔な表現といえます。以下で詳しく検討してみましょう。
それぞれの文と、もとになった次の文 A. とを比較していきます。
A. 外界をどう認識するか、問題をどう解決するか、どのようなメンタルモデルを選択するかなど、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
まず、最初の選択肢 a.について考えます。
a. 外界認識、問題解決、メンタルモデル選択などの方法を含め、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
この文の前半はじつは構文的に曖昧(あいまい)で、「外界認識の方法」「問題解決の方法」「メンタルモデル選択の方法」の3つが並列になっているのか、「外界認識」「問題解決」、「メンタルモデル選択の方法」の3つが並列になっているのかがはっきりとわかりません。もとの訳文 A. はこの点については明確です。
また、a.の「外界認識」あるいは「外界認識の方法」ともとの文の「外界をどのように認識するか」を比較すると、後者の方が何を言いたいかが明確になっているように感じられます。突き詰めて考えてみるとどちらも同じような気もしますが、「外界をどのように認識するか」の方が何を言いたいのか分かりやすいと感じられる人が多いでしょう。これは残りの2項目についても同じことが言えます。
以上のことから、a. は A. とは少し意味が違うと判断できます。
続いて、 b. について見ましょう。
b. 外界を認識する仕方、問題を解決する方法、利用するメンタルモデルなど、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
まず、a. のような構文的な曖昧さはなく、どれが並列になっているかがはっきりとわかります。並列の各要素をもとの文 A. と比較しても、それぞれの要素が同じものを指していると言ってよいでしょう。違っているのは、b. では各要素が名詞になっていることです。これに対して A. では「〜するか」と、動詞に「並立助詞」の「か」が付いた形で終わっています。
問題のもうひとつの着目点である簡潔さについて見ると、概して、動詞的な表現よりも名詞的な表現の方が簡潔になることが多いと言えます。この例の場合もそれは当てはまるといってよいでしょう。この点については d. のところで詳しく説明します。
次は c. です。
c. 外界の認識や問題の解決をする方法、利用するメンタルモデルなど、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
じつはこれも構文的に曖昧で、「外界の認識」「問題の解決をする方法」「利用するメンタルモデル」が並列になっているのか、「外界の認識をする方法」「問題の解決をする方法」「利用するメンタルモデル」が並列になっているのかはこの文の意味を考えてもすぐにはわかりません。もとの文 A. の方が明らかに意味がわかりやすいと言えるでしょう。c. の方が簡潔とも言えなくもないですが、意味が違ってしまっては元も子もありません。
最後に正解の d. です。
d. 外界の認識方法、問題の解決方法、メンタルモデルの選択など、ありとあらゆることがベテランとビギナーとでは著しく異なっているのです。
この文は、「外界の認識方法」「問題の解決方法」「メンタルモデルの選択」の3項目が並列になっていることはまず間違いないとすぐにわかります。いずれも「XのY」という形式になっていますし、意味的にも明確です。
b. と同じように、d. も並列の各項目が名詞になっています。b. は「(Xを)YするZ」という動詞を含む形式でしたが、d. では動詞は含まれていません。
もとの文 A. と d. を比較してみましょう。意味的には同等と言えるでしょう。A. の方が副詞や動詞を使ってていねいに説明している印象なのに対して、 d. は名詞を使ってキビキビと説明している印象になります。したがって、d.の方が簡潔な表現といえるでしょう。
最後に、b. と d. とを比較すると、上の議論からおわかりのように d. の方がより簡潔な印象になります。したがって、正解は d. となります。
このように、同じ文を同じような単語を使って翻訳するとしても、さまざまな構文(表現)を選択することができます。その文書全体や周囲の文脈(雰囲気)、長さの制限(たとえば字幕スーパーなら字数の制限がきつい)などを考慮して、適切な表現を選ぶ必要があります。
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