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インタフェースデザインの心理学 スーザン・ワインチェンク著 武舎広幸+武舎るみ+阿部和也訳

訳者あとがき

 ここ何年か、できるだけ早起きして散歩をするようにしています。早朝の空気のすがすがしさも心地よいのですが、もうひとつ楽しみなのが美しい朝焼けです。特に冬の朝焼けは格別です。朝日が昇るだいぶ前から空の色が変わり始め、群青色から刻々と変化して濃い柿色になり、朝日が昇り始めるまで、少しずつ少しずつ微妙に変化していきます。

 そんな景色を眺めていると湧いてくるのが、「自然はなぜこんなにも美しいのだろうか」という疑問です。

 この本の8章に書かれていますが、人は文化の違いにかかわらず、丘、水、木々、鳥、動物、遠くへ続く道などが書かれた絵を好ましく思うそうです。水は生存に必要ですし、木々は捕食者がやってきたときに身を隠すのに最適、といったように、自分の生存にとって役に立つものを好ましく思うらしいのです。

 この本の論理に従うと、自然を美しく感じるのも人間が生き残るために必要だったということになりそうです。

 自然が美しいと思うことでなぜ人間が生き残ってきたのか、ひとつ思いついた理由があります。それは、「美しいものに接していたほうが気分がよい」ということです。美しい日の出を見れば「きれいだなあ〜。さあ、今日も一日がんばるか」という気分になります。池のそばを通って真っ白な鷺に出会えた日は、「今日もいいことありそうだ」と嬉しくなります。

 もしも人間が自然を美しいと思わない生物だったら、こんなことは感じずに、淡々と日々の生活を送るのでしょうか。人生を楽しんでいる人のほうが長生きはしそうですし、病気にもかかりにくそうです。地球上の自然を美しく思った原始人は、日々の生活をより楽しむことができ、より健康になり生き残ったが、そうでない原始人 ── 自然を見ても何も感じなかった原始人 ── は絶滅してしまった。そうでない原始人も山ほどいたけれど、「現在の自然を美しいと思うように生まれてきた原始人は生き残った」というわけです。

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訳しながらこういったことを考えさせてくれたこの本は、インタフェースデザインには直接かかわらない一般の人々にとっても、とても面白く興味深い本だと思います。長くても数ページ以内のトピックが100個、10の章に分かれて掲載されており、興味をもったところから好きな順序で気軽に読み進めることができます。ちょっと時間が空いたとき、仕事に詰まって気分転換をしたくなったときに、手に取っていただくのに最適な読み物です。

 それでいて、けっこう「深い」読み物でもあります。人間とは何か、無意識は何をしてくれているのか、「目から鱗」の考察がいっぱい詰まっています。

 もちろん、この本が一番役に立つのはウェブサイトやアプリなど、各種のシステムのインタフェースデザインに関係している方々にとってでしょう。厳しい生存競争を勝ち抜いて「進化」するシステムを構築するために、心理学の博士号をもつ原著者がわかりやすくまとめてくれた、最新の研究成果がとても参考になるでしょう。

 この本が人生をより豊かなものにしてくれる、美しくて使いやすい、優れたサイトやアプリが増えるひとつのきっかけになってくれるのではないかと期待しています。

 最後になりますが、訳者の質問にいつもすぐに返事をくださった著者のスーザン・ワインチェンク氏、この興味深い本の翻訳の機会を与えてくださった株式会社オライリー・ジャパンの方々に深く感謝いたします。

2012年6月
訳者代表
マーリンアームズ株式会社 武舎 広幸